このコーナーでは30年近く前の平成元年〜5年ごろにかけて、当時サラリーマンだった園主が趣味で行ったランの交配品種についてご紹介いたします。(後段:園主のつぶやき)
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(1)
品種名 「市女笠」(いちめがさ)
交配親 | 富貴蘭「朝日殿」×ボウラン |
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交配実施年 | 平成元年〜5年ごろの間 |
交配回数 | 1回 |
耐寒性 | 強い(マイナス2℃) |
特 徴 | 葉はボウランが棒状なのに対して中心が少しくぼみます。 |
葉の大きさ | 葉長15〜20cm、葉幅2〜3mm、横から見た葉の高さ3〜4mm |
花の大きさ | 1花の幅25mm、上下26mm |
花 色 | 花弁はやや肉厚弁で白〜黄味を帯びます。 |
開花時期 | 開花時期は5〜6月又は8〜9月咲きです。 |
花付き・花持ち | 花付き良く、フウランに比較すると花持ちも良いです。 |
栽培の遮光率 | 遮光率は、春〜秋・70%、冬30%程度が良いです。 |
育て方 | 水やりは、水苔植え・ヘゴ着けとも水苔・ヘゴが湿っている間は与えず、完全に乾いてから1〜2日後に与えます。(詳細は添付の育て方をご参照ください。) |
名前の由縁 | 雨を想わせる葉と合わせて、若干うつむき気味に咲き、背萼片・側花弁の先が下方へ湾曲し、全体のイメージが平安時代の女装束、市女笠(中央が高くなったかぶり笠)を想わせることからです。 |
その他 |
市女笠について |
ヘゴ着けの市女笠で、ヘゴに着けて約3年経過したものです。
1本当たりの根出し本数が少ないため、ヘゴに活着するまで2,3年を要します。
上写真株のクローズアップ写真です。
上写真とは別株です。
舌(唇弁)の模様は人間の顔のように個性があります。
萼片・花弁も白〜黄色と若干の個体差があります。
上写真とは別株です。
(2)品種名 「スノーダンサー」
交配親 | 富貴蘭×リンコスティリス・ギガンティア・レッド(F1交配=1代目の交配)の交配種を花粉親として富貴蘭に再交配したもの(1代目の親との戻し交配) |
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交配実施年 | F1交配は昭和後期、戻し交配(当園による交配)は平成元年〜5年ごろの間 |
交配回数 | F1交配は4,5回、戻し交配は1回 |
耐寒性 | ある程度強い(マイナス2℃) |
特 徴 | 比較的長い距(30〜40mm)を後ろ上方へ上げるように出します。 |
葉の大きさ | 葉長15〜20cm、葉幅13〜16mm |
花の大きさ | 花はフウランより一回り大きい大輪(距を除く1花の幅約30〜35mm、上下約30〜35mm)で、花弁の幅広く肉厚弁の花です。 |
花 色 | 花弁・萼片・舌(唇弁)は肉厚弁で白色です。 |
開花時期 | 開花時期は4〜5月です。 |
花付き・花持ち | 花付き良く、1花の開花期間約3週間です。 |
栽培の遮光率 | 遮光率は風蘭より暗めが良く、春〜秋・70〜80%、冬30〜40%程度が良いです。 |
育て方 | 水やりは、水苔植え・ヘゴ着けとも水苔・ヘゴが湿っている間は与えず、完全に乾いてから1〜2日後に与えます。 |
名前の由縁 | 距を後ろ上方へ出す花の咲き方により、ダンサーが踊っている姿を想わせることからです。 |
距を後ろ上方へ上げるように出して咲きます。
1花茎の輪数が多いためボリューム感があります。
ヘゴ着けスノーダンサーの写真です。
根が1本でも2本でもヘゴを捉えると活着が早まるのですが、新根の本数が少なくてなかなか思うようにヘゴに着きません。
上写真とは別株のヘゴ着けスノーダンサーです。
(3)品種名 「青玉竜」(せいぎょくりゅう)未登録
交配親 | 富貴蘭「玉金剛」×「淀の松」 |
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交配実施年 | 平成元年〜5年ごろの間 |
交配回数 | 数回 |
耐寒性 | かなり強い |
特 徴 | 無地豆葉の品種で、紺性の強い肉厚幅広の葉です。 |
葉の大きさ | 1条の全幅10〜14cm、高さ8〜11cm。 |
花の大きさ | 花は上を向いて咲く天咲きで距が短い花です。 |
花 色 | 若干肉厚弁の白色です。 |
開花時期 | 当園栽培富貴蘭・風蘭の中では最も早咲き(5月下旬)です。 |
花付き・花持ち | 花付きは原種フウランと同様か若干少なく、1花の開花期間はフウランと同様に7〜10日間です。 |
栽培の遮光率 | 原種風蘭より若干弱めの遮光率が良いとされる富貴蘭覆輪品種、縞斑品種等よりも更に弱めの遮光率にすると、葉持ち良く紺性も深まります。 |
育て方 | 遮光率を除いてフウランとほぼ同様です。(詳細はランに添付いたします育て方をご参照ください。) |
名前の由縁 | 紺性強い短尺葉が、襟組み良く葉繰りも多いことからです。 |
7本立ちの青玉竜です。
豆葉としては大型の葉となります。
花茎は9本あります。
葉幅は最大12.1mmです。
ヘゴ着けの青玉竜(11本立ち)です。
葉幅は最大12mm程度となるものが多く、本株は葉幅最大12.4mmです。
5本立ちの青玉竜で花茎は8本あります。
葉幅は最大12.2mmです。
(4)品種名 「淀ノ海」(よどのうみ)未登録
交配親 | 富貴蘭「淀の松」×「青海」 |
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交配実施年 | 平成元年〜5年ごろの間 |
交配回数 | 数回 |
耐寒性 | かなり強い |
特 徴 | 無地豆葉の品種で、紺性の強い肉厚幅広の葉です。
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葉の大きさ | 1条の全幅8〜13cm、高さ7〜10cm。 |
花の大きさ | 花は上を向いて咲く天咲きで距が短い花です。 |
花 色 | 若干肉厚弁の白色です。 |
開花時期 | 当園栽培富貴蘭の中では青玉竜と同様に早咲き(5月下旬)です。 |
花付き・花持ち | 花付きは原種フウランと同様か若干少なく、1花の開花期間はフウランと同様に7〜10日間です。 |
栽培の遮光率 | 原種風蘭より若干弱めの遮光率が良いとされる富貴蘭覆輪品種、縞斑品種等よりも更に弱めの遮光率にすると、葉持ち良く紺性も深まります。 |
育て方 | 遮光率を除いてフウランとほぼ同様です。(詳細はランに添付いたします育て方をご参照ください。) |
名前の由縁 | 淀の松と青海の文字からです。 |
その他 | 青玉竜の親木「玉金剛」は葉先が太く見える丸止め葉であり、淀ノ海より青玉竜の方が葉先に丸みを持ちそうですが、「青海」の葉を玉金剛と同じ大きさに拡大したとして比較すると、葉先がかなり丸みを持っています。 |
淀ノ海1株11本立ち子芽5本付きの株です。
花茎は12本あります。
葉幅は最大11.8mmです。
フラスコ出しから1株で生育したもので、実生から約25年以上経過した株です。
大株は植え替えの際に株元の分岐点が古くなって自然と分離するものが多いです。
淀ノ海の花付き大株です。
計測した数値等はありません。
淀ノ海1株7本立ち子芽2本付きの株です。
花茎は7本あります。
葉幅は最大13.0mmです。
(5)品種名 「舞千鳥」(まいちどり)
交配親 | 風蘭×ドリティス |
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交配実施年 | 平成元年〜5年ごろの間 |
交配回数 | 1回 |
耐寒性 | 当園交配種については、ある程度強い(マイナス2℃) |
特 徴 | 花はドリティス同様に総房花序を付け、桃紫色の小花はドリティスの特徴ある唇弁両横にうちわ状に付く側裂片がかなり小さくなり目立ちません。
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葉の大きさ | ドリティス同様のざらつき感のある葉ですが、幅はかなり細い広線形の葉です。 |
花の大きさ | 花は無香で、花の大きさ幅25mm、上下30mm。 |
花 色 | 桃紫色で個体により若干の濃淡及び花弁の広狭があります。 |
開花時期 | 5〜7月・稀に秋 |
花付き・花持ち | 小株でも花付きは良いです。 |
栽培の遮光率 | 遮光率は風蘭より暗めが良く、春〜秋・70〜80%、冬30〜40%程度が良いです。 |
育て方 | 水やりは、水苔植え・ヘゴ着けとも水苔・ヘゴが湿っている間は与えず、完全に乾いてから1〜2日後に与えます。 |
名前の由縁 | 多くの鳥が舞う様子からです。 |
その他 | ドリティス属は1属1種のランで、ビルマ・タイ・スマトラ等に分布します。 |
開花が終わりかけている舞千鳥の11月22日に撮影した写真です。(下の写真と同じ株です。)
1花茎が開花し、下方の花は分枝した花茎が開花している状況です。
主花茎の上下は33cmで8月26日に最下部の2花が開花し始めました。
8月26日から本写真の撮影日まで88日経過していますが、これほど長期間咲くのは稀です。
主花茎は15花のうち最上部2花を残しています。
本株は咲き終わって枯れた花茎を切除してありませんが、花茎の本数からみても花付きの良い品種です。
上写真の株です。
主花茎の下方から分枝した花茎は、最下部の1花が咲き終わり、4花が開花しています。
5,6月の開花時期より遅い開花のために、特に花が長期間持ったようです。
園主のつぶやき
このコーナーでは30年近く前の平成元年〜5年ごろにかけて、当時サラリーマンだった園主が趣味で行ったランの交配品種についてご紹介いたしました。
掲載の品種以外のものも、順次ご紹介していきたいと思っています。
ランの交配品種について厳密には実生である限り1粒1粒の種子が持つ遺伝子は同一ではなく、一つの種さやの中から花形・花色等に違いのあるものが生まれる可能性があります。
種苗登録等を行う場合は、1株の個体の生長点を細胞分裂により増殖したメリクロン苗又は株分け苗が真に同一の品種となります。
慣例として現在でも交配により生まれた複数の実生兄弟株を同一の品種名としているものが多くあり、当園でもその例に従っています。
厳密に言えば実生の兄弟株ですが、良く似た双子の兄弟でも少なからず個性的な違いがありますし、ランで言えば花色の濃淡、唇弁模様の相違等、個性的なものとしてみていただければ幸いです。
自然界は人智を超えたところにあり、例えば富貴蘭を見ると、株分け苗からも突然変異により親木と似ても似つかない品種が現れるのが面白いところです。
当園は大きな育種農園の方々と違って、継続的に交配育種を行っているわけではなく、平成の初めに交配して育種したランを現在販売しています。
始めに行った交配から長い空白期間を置いて、定年退職後に数交配を行ってみましたが、既存のランの世話に忙殺され中途半端で終わっています。
もとより育種に関する知識経験もない中で、交配親として適していそうなランを入手し、交配親の組合せを選んで行っていました。
苗を育てている長い年月の過程で、特にミニカトレア等の洋ラン系の多くのものは植え替え時にラベルを記入しなくなってしまいました。
交配親の洋ランは全てに品種名又は交配親のラベルが付いていましたが、ラベルを付けなくなった理由も、咲いてみて気に入ったものだけを育てればいいという安易な考えでした。
交配育種品種はおよそ年間20交配として約5年間で累計100交配ほどの数だったと思われます。
フラスコ内に播種しても雑菌により汚染されたもの、フラスコから出して苗として育てる間に枯れたものは数えきれないほど多くありました。
1交配から育てたものが数本しか残っていないものや、播種した全てが全滅というものが多数あります。
主に行った交配の組合せとしては、富貴蘭×富貴蘭、富貴蘭×洋蘭単茎種、風蘭×洋蘭単茎種、ミニカトレア×ミニカトレア等であり、ミニカトレアを除けば片親(主に母樹)に日本のランを使っています。
自らも含めて、ランを良いと思った人が手軽にランを育てるには、当時も経費が掛かった灯油重油による暖房の必要がないものを作りたいと思っていました。
交配後に無菌フラスコ内に播種して、洋ラン等の生長の早いもので開花株となるまでに3〜5年、風蘭や富貴蘭の実生では7〜10年を要する場合もあります。
フラスコからフラスコへの植え替えを含み、開花までの手間を考慮すると胡蝶蘭等の市場規模の大きなものを除いて、営利的には採算を取るのが難しい状況だと思います。
趣味で交配育種を行う場合は、開花に至るまでの手間を考えるよりも、それを楽しむ方が勝るのかも知れません。
実際にやってみて、交配育種の結果は期待どおりにはならないことがほとんどだということもよく分かりました。
交配により生まれたランは、同じ交配が他で行われていなければ世界に初めての品種であり、そういうところが育種の楽しみでもあります。
また、滅多にないことですが交配により育種した多数の苗の中から、思いがけない変化品が現れたりすると大きな喜びとなります。
変化品の出現率は万に一つで、それが優良品という確率となると、まずほとんどありません。
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