風蘭を流木に着けてみました。
室内卓上流木着け風蘭の作製例(作製2020年12月19日)
(後段)
室内卓上流木着けのその後の状況(開花状況及び流木着けの修整等 2021年10月9日)
室内卓上流木着けの作製から1年6箇月後の状況(2022年6月の開花状況)
左はヘゴ着けのフウラン、右はシイの立ち木に着けたフウランです。
ヘゴ着けはヘゴに着けて約20年、シイの木は着けて3箇月後の撮影です。
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室内卓上流木着け風蘭の作製例(作製2020年12月19日)
風蘭・富貴蘭の着生ランは水苔に植えて栽培するのが一般的ですが、ここでは流木に着ける試みの方法をご紹介いたします。
着生ランをヘゴやコルク、岩石等に着ける栽培は昔から行われてきました。
着生ランの多くは生きている樹木に張り付いて自生している性質から、そのランを採集して育てることを考えれば、自然に試みられた栽培法だったと思います。
枯れた樹木材料に着けるためには、ヘゴやコルクのような水分保持機能がある材料が適しています。
風蘭・富貴蘭の自生地での生育状態に近い栽培方法として、当園では15年以上前からヘゴ着け風蘭・富貴蘭を作っています。
流木はヘゴ等に比較すると水分保持力が小さいのですが、水やり等の管理で補えれば育生が可能と思います。
かつてワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引の規制による保護)にヘゴが加えられ、最近はヘゴ材の入手が容易とは言えなくなっています。
ヘゴ材の入手が困難なこともあり、他の着生材料として流木や樹木の根などを利用して風蘭の着生を試みました。
また様々な住宅事情等からベランダや屋外での栽培が困難な場合を考慮して、年間を通して室内での栽培としてみました。
室内に置くスペースも考慮して流木着け風蘭の大きさとしては、机の上に置けるほどのサイズで作製します。
当園のビニールハウスや無加温温室フレームも見方によっては室内とも言え、管理方法を工夫すれば室内で育生が可能ではないかと思います。
当園では過去に、たまたま1個あった流木に風蘭を着けたことがあるのみで、流木着け風蘭を作ってきてはいませんでした。
今回、どのような結果になるか分かりませんが、その経過をご覧いただければ幸いです。
また12月という冬に向かう時期に作製するのは一般的で有力な方法とは言えませんが、あえて不向きな時期とすることで、他の時期はよりやりやすいと思っていただければと思います。
流木等に着けている方も多くおられると思いますが、良い方法等をご教示いただけますと幸いです。
流木は適当な大きさで形も良いものとなると入手が難しくなりますが、ランを着けることによって全体の風情も大きく変わりますので、着ける前から形状に拘ることなく選定するのが良いと思います。
また、木を削る道具があれば素材を加工して形状を変えることもできます。
流木は流れてくる間に枝葉や樹皮が取れているものを使うようにします。
海岸に流れ着いた流木は、経年により角が取れて木肌も適度に荒れているものが多いと言えます。
しみ込んだ塩分を抜くには長期間雨ざらしにするか、水槽へ浸けるなどの方法で塩抜きをしてから使用します。(詳細は後述)
1
作製した風蘭・富貴蘭のヘゴ着け2点、流木着け2点、枯れ木着け1点を室内の南面窓際に置いてみました。
レースのカーテンは厚めで、光線透過率は普通のものより若干低いと思われます。
季節によっては位置を左右にずらそうと考えています。
2
木製折り畳みテーブルを台にして、園芸用プラスチックトレーに逆さにしたトレーを抱き合わせた置台を載せてあります。
下のトレー内にビニールを張って水が漏れないようにしました。
また、空中湿度を求めたい場合、ビニール内に水を張れば多少なりとも加湿できると思います。
これから冬に向かい、空中湿度はないよりもあった方が良いと思いますが、休眠期のためなくても大きな問題ではないと思います。
トレーを抱き合わせて空間を作り、載せた流木着け風蘭の底面にも通気を良くしました。
枯れたフジヅルに着けた風蘭は置くスペースがないので針金のスタンドで吊り下げました。
3
5点とも作製は12月19日の冬に差し掛かる時期となりました。
うまく生長するかどうかは分かりませんが、当園フレーム内では年間を通してヘゴ着けや植え替え作業を行っています。
理想的なヘゴ着け・植え替えの適期は3〜4月となります。
自然環境の中で作る庭木着けの場合は、着生樹の葉の展開等も影響しますので、適期は4〜5月となります。
4
抱き合わせたトレー上に並べた状態です。
写真中央と左側のものは吊下げタイプのものですが、栽培の上では寝かせておいても支障ありません。
水持ちは吊下げるより寝かせた方が若干良くなると思います。
ランの株の向きと光線の差す方向を考慮して置きますが、たまに位置替えすると良いと思います。
5A
着生材は5個用意しました。
A(長さ約29cm、最大太さ約5.5cm) は樹種は分かりませんが、枝がY字状になった流木です。
端部に吊下げるための穴を開けてあります。
切断部の角やささくれを木工やすり等で取ってあります。
流木は丸太を良い長さに切り取ったもので十分です。
6A
A の裏側です。
太さは太い所で約5.5cmの小枝です。
7B
B(長さ約21cm、太さ約6cm)は切られて枯れていたフジのツルです。
長さ1mくらいのものを短く切ってあります。
流木ではありませんが、山林の育生林で営林のため伐採されたものです。
8B
樹皮が付いているので、いずれは剥がれるかもしれません。
どんな樹種の樹皮が剥がれやすいのか分かりませんが、木肌を観賞する場合、表面の保護のためにニス等を塗る場合があります。
ニスも樹脂ですが水分を吸収しないので、ランを着ける場合は塗っていないものが良いと思います。
9C
C(長さ約26cm、高さ約11cm)は流木の根の部分を切り取ったものです。
流下する間に岩等と当たった跡がささくれて生々しい状況です。
10C
これほど断面がささくれていると水持ちが良すぎるかもしれません。
本来であれば、5個の流木着けを作れば5通りの水やり加減が必要になります。
一度に水やりする場合は、それぞれに水の掛け具合を調整できればより良いと言えます。
11D
D(長さ約11.5cm、幅約8cm)はヘゴ材を短く切ったものです。
流木着けに合わせて、室内での育生を試すことと、流木着けとの比較のために作製します。
12D
三角柱形状で自立するので、立てて使うことにします。
ジスクグラインダーで面取りをしてあります。
13E
E(長さ約22cm、幅約5cm)はヘゴ材の細いもので、風蘭にはやや細すぎるので、小柄な富貴蘭「轡虫」を着けることにします。
これも流木着けに合わせて、室内での育生を試すために作製します。
14E
三角柱形状で表面より製材で切り取った側面の方が幅広く、ちょっと使いにくい形状です。
このような着生材は、着けたランが生育して裏側に回ってしまうこともあります。
15
流木着けに使う富貴蘭「青玉竜」の根ほぐし株です。
1本立ちの小株が多く、下葉の枯れ上がった株もあります。
合計12本立ち子芽3本付きで、葉長は6〜7cmです。
16
富貴蘭「轡虫」の根ほぐし株です。
写真右上の1本は青玉竜です。
轡虫4株6本立ち子芽5本付きで、葉長6〜7cmです。
17
風蘭の根ほぐし株です。
ほとんどが1,2本立ちの小株で、合計41本立ち子芽4本、古木3本です。
葉長8〜10cmで、ほとんどの株を使用しました。
18
凹凸のある着生材や、着生材が小さい場合は小株の方が着けやすいと言えます。
19D
Dのヘゴ材には青玉竜を着けました。
ヘゴ材が自立するので、このまま栽培します。
20D
株元をビニール被覆針金(太さbQ0)で縛り、端部を交差させて180度ひねって止めます。
付いている根はヘゴ材に沿わせて巻き付け、梱包用ビニール紐で縛ります。
新根が出て着生材に貼り付く活着の状態になるまで、1年から2年間弱の間、紐等が目障りですがこのままで管理します。
活着すると、ランは住処を得て、その性質を発揮して丈夫に生長を続けます。
針金は2年以上付けたままでも支障ありませんが、場合によっては修整のために追加することもあります。
21A
Aの流木小枝にも青玉竜を着けました。
22A
最下部の株は下葉を落とし、更に天葉に近い部分の葉をまとめて落としています。
水苔植えでは植えようもない状態ですが、天葉を落とさずに上部から発根すれば枯れずに生育します。
23A
Aの裏側です。
24A
Aは上部にドリルで穴を開け、ナイロン糸で吊るすようにしました。
25E
Eの細いヘゴ材に着けた「轡虫」です。
細いヘゴには小株を上から順に着け、下方は少しずつ位置をずらして着けます。
26E
横から見た状況です。
現在出ている古い根は着生材に貼り付きませんが、水分を少しでも保持するため、更に古根の先端から再度伸び出すことがあるため、ヘゴ材に巻き付けるように沿わせておきます。
27E
三角柱形状の二面に轡虫を着け、残る一面の状況です。
根が重なっていることもわずかな水分保持になると思います。
28E
ビニール被覆針金(太さbP4)で吊るした状況です。
29B
Bのフジヅルに着けた風蘭です。
最上部に着けた小株をビニール被覆針金で止めます。
30B
針金で縛る位置は、新根の発根しそうな位置を避けますが、多くはその近辺となります。
それでも細い針金のため、その針金が発根の妨げになる確率は非常に低いです。
31B
小株の場合は1本の針金で十分に固定することができます。
32B
2段目にも数株を固定します。
風蘭の大きさとしては同じ小株でも大き目な株を中間に持ってきました。
33B
針金の端部を交差させて止めますが、針金が通る部分のランとヘゴ材との隙間は全くありません。
このランがヘゴ材と接触する部分からの発根はできない状態ですが、固定するためにはやむを得ず、もしその接触部から発根できないとしても他の位置からの発根に代わるのではないかと思います。
34B
3段目を縛り終えて、古根をビニール紐で巻いた状態です。
35B
フジヅルは円柱形のため、全周に風蘭を着けることができますが、定位置に置いて管理するには日光が当たる面に着けることとしました。
全周に着けた場合は、時々ヘゴ材を回転して採光を均一に採ります。
36B
Bもナイロン糸で吊るすようにしました。
37C
Cの流木根株へ風蘭を着けます。
凹凸があり、針金で押さえる力も有効に効かなかったり、凹みに着けたい場合もあります。
38C
凹みに着けるには着生材にビスを打って止めるようにします。
ビスを外した穴が残りますので、なるべく細いビスが良いのですが、写真は4mmの太めのビスです。
39C
この部分が凹んでおり、ビス間を針金で縛りましたが、更に必要な場合は中間にもう1本ビスを打てばしっかり固定できます。
40C
裏側に打ったビスです。
41C
手前の出っ張りには青玉竜を着けました。
42C
もう1か所の凹みにも風蘭を着け、こちらは短い間をビスと針金で固定しました。
43C
出っ張りの青玉竜を固定した状況です。
44C
更に空いた所に風蘭小株を着けました。
45C
着け終えた状態ですが、流木はランに覆われて近づいて見ないと流木の形状もよく分からない状態です。
46C
流木の出っ張り部分と本体はつながっていますが、厚みがなくて亀裂が入っています。
47C
裏面の状況です。
48C
亀裂部分は経年で分離するおそれがあるため、ブリキ板で補強してあります。
49
浴室へトレーの置台ごと運んで水やりしました。
100円ショップにて購入したシャワーノズルをペットボトルに取り付けています。
50
わずかでも保温ができればと思い、ランの上部にビニールを覆いかぶせました。
ビニールは南面が開いていて下方まで垂れるものではないため、過度の加湿(水滴の付着)や温度の急な変化も起こらないと思います。
2021年1月9日は今冬一番の寒波に見舞われ、自宅屋外の小さなガラスフレーム内で最低気温マイナス3℃となりました。
卓上流木着けを置いてある自宅8畳間は暖房設備もありませんが、9日の最低気温はプラス1.5℃でした。
9日は気温が上昇してから8日ぶりの水やりをしましたが、トレー内のビニールの上に落ちた若干の水を、こぼさずにそのままとして加湿(保湿)効果を期待します。
流木の塩抜き
海岸にあった流木は水槽に長期間浸けて塩抜きをしてから使用します。
その際は、浸透圧の関係から、最初は塩分22%程度の塩水に浸けます。
木の太さにより水に浸ける日にちも変わりますが、1,2週間経過したら水量の半分程度の真水を加えて水槽の塩分濃度を徐々に下げて行き、最後は真水とします。
合計して3,4週間以上は浸けた方が良いと思います。
塩分が残っていると、着生後の生育が阻害されますので、塩抜きは十分に行うことが大切です。
塩抜きが終わったら屋外で乾燥させます。
塩抜きは日にちがかかりますので、前もって準備するようにします。
流木の加工
初めから気に入った形の流木が入手できれば良いのですが、加工することによって形状等を整えます。
樹木の根元部分は形も変化に富んでいるものが多くあります。
樹木の根を切り出したものは、自然に朽ちた感じを出すため、切断した角のある部分の切削や面取りを行います。
最初にノコギリ等を使って大まかに切削し、ディスクグラインダーに木工ディスクを付けて粗く削り出します。
ディスクをカップワイヤーブラシに替えて仕上げを行います。
ディスクグラインダーがない場合は木工用のやすりやワイヤーブラシを使います。
樹木の表面は樹皮を剥がしただけの状態より、わずかに毛羽立った状態が良いと思います。
樹木のみを見た場合、複雑に入り組み絡み合った形状の方が味わいもありますが、ランを着けると細かな凹凸等は隠れて見えなくなります。
樹木根元の形状は、あまり味わいに拘らなくても、完成すればランが主役になりますので、大きさや大まかな形状で選ぶ方が良いと思います。
大き過ぎると、その後の管理が大変になりますので、最大幅20〜50cmくらいが適当と思います。
着生材の加工は、吊るす場合・立てて置く場合・そのまま置く場合等で異なりますが、立てて置く場合は、転倒しないように重心を取って底面を加工します。
流木を立てて置く場合は、重心を取って自立するように底面を加工した方が良いですが、不安定なものは転倒防止を加工します。
安定する大きさの台板を用意してピン(太さbW、直径5mm程度のビニール被覆針金)を立て、ドリルで流木底面に穴を開けて差し込みます。
吊り下げる場合は、ランを着けると重心が変わることを考慮して針金や紐を通しますが、重心の変化に対応するには二点(場合により三点)を支持します。
5月以降に流木着けを作った場合のご留意事項
来春の活動期まで根の伸長等、ほとんど生長の変化は見られませんので、少しでも湿度を保てる場所に置きます。(例、通気性はあっても直接強い風の当たらない場所等)
通風の悪い場所では、夏季の間、できれば温度サーモスタット(ミニ温度調節器・アマゾン1,000円程度〜)を介した扇風機を置くと良いです。
採光については、梅雨明け後から11月末までは、60〜70%(富貴蘭75〜85%)とやや暗めの遮光とします。(例、遮光率65%とは遮光ネット50%+30%の二重張り・遮光率75%とは遮光ネット50%の二重張りになります。)
4月〜11月の間の水やりは3〜5日に1回、夕方から夜間の水やりが適します。(水やり間隔で、水のやり過ぎは禁物です。)
12月〜3月の間の水やりは7〜10日に1回、暖かい日の午前中にランの全体に軽く灌水します。
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(後段 2021年10月9日 追加)
室内卓上流木着けのその後の状況(開花状況及び流木着けの修整等)
流木着けを冬を迎えようとする時期に作り、その後は自宅の室内を置き場所として管理し、果たして活着するのか少なからぬ不安がありました。
作製から春の活動期まで、草体の生長による変化はほとんどないのですが、枯れないように水やりを続けました。
作製から6月末日まで、毎日は出来ませんでしたが、カレンダーに水やりの状況と置き場所に設置した最高最低温度計の記録を取りました。
水やりは定期ではなく、乾き具合を見て行ったり1,2日忘れることもあり、冬はスプレーを3〜7日に1回、全体にたっぷりの水掛けは2週間に1回程度、いずれもその時の気分で気が付いた時に行うという状態でした。
暖かくなってからは、雨天に数時間外に出して流木に水を含ませることも行いました。
今年の冬は比較的暖かく、外気温との比較はほとんどしませんでしたが、1階の暖房をしない8畳間の気温は外気温より3〜4℃高く、室内の置き場所の最低気温がマイナスになったのは2月18日のマイナス0.5℃のみでした。
遮光については、季節が変わり陽光の差す角度が変化して、1,2月はレースのカーテン越しでも強いかと思ったのが、4,5月以降は掃き出し窓であるにも関わらず陽が差さなくなり、たまにはカーテンを開ける状態としました。
間接光により明るさは保てるので、特に支障はないと思いますが、採光が少し足りないと思いました。
盛夏となるころからはまた終日カーテンを引き、9月ごろはまた時々カーテンを開けるようにしました。
10月に入ると太陽光が傾き始め、カーテンを閉める状態になっています。
多少暗いのは問題ありませんが、窓に近すぎて時間帯により直射光が当たるのは注意しなければなりません。
採光が多いと乾燥も早くなりますから、水やりの手間が増えることになります。
6月末にはつぼみが開花を始めました。
風蘭は小さな流木に合う小振りな株を着けたので、活着するまで、花芽が確認された時点で花芽欠きするのが良かったのですが、今回はそのまま咲かせました。
この時点で枯れたものが数本あり、水を吸わずに葉を閉じているものもあります。
6月26日及び30日の開花状況を撮影しました。
全体の状況を室内側から撮影しました。
青玉竜、風蘭が開花しています。
窓側から撮影した写真ですが、一部に枯れそうな木が見られます。
既に天葉まで枯れた木が見られます。
最も良く日の当たるフジヅルに着けた風蘭は花が終わっているものも見られます。
写真右側の轡虫はつぼみが伸びつつある状況です。
流木の根株に着けた風蘭は、この時点で4,5本が枯れてしまいました。
根は白くて太い根が1本以上あれば生育する望みがありますが、水分を失った針金状になっています。
着ける段階で小さな風蘭でしたが、下葉を落とした株で体力も十分とは言えない状態でした。
着けた時期が寒さに向かう12月で、保湿の管理にも改善の余地があると思います。
細い流木の下から3本目に着けた青玉竜は着けて早々に枯れたため、代わりの青玉竜となっています。
細いヘゴ材に着けた轡虫は元気よく花芽を伸ばしています。
4日後に開花した轡虫です。
尻尾に独特の剣を持つ昆虫のクツワムシに葉先が似ていて、茎は幅広く重厚です。
花も独特の奇花で、花弁先に紅をさす花を咲かせます。
富貴蘭の中では比較的根出し量が多く、着生材に着けやすい品種だと思います。
フジヅルの樹皮は凹凸がありますが、樹皮の保水力は低いようです。
保水力を上げるためにランの株を多めに着け、密集による保水効果を期待することも良いと思います。
着生材を縦に使って垂直面に着けた場合、活着するまで水平に寝かせて管理すると、保水性が多少良くなります。
AのY字形をした流木に着けた青玉竜、Eのヘゴに着けた轡虫がその例で、若干の水の流れ落ちにくさが期待できます。
当初フジヅルは保水性が良さそうに見えたため、吊下げて管理することにしましたが、樹皮は水をはじくようにも見え、フジヅル自体の保水性は低そうです。
着けて8箇月経ちましたが出る根もわずかで、着生材に貼り付いている根はほとんどありません。
フジヅルは置き場所も流木着けの南側に吊下げてあるため、乾燥しやすい状態です。
Dのヘゴ材に着けた青玉竜です。
今年出た根は1条当たり1〜3本で、ヘゴを捉えている根はあまりありません。
ヘゴを捉えやすくするため根を縛り直しました。
古い根の先端が再度伸びだした際、ヘゴを捉えやすくするために根先に注意して縛り直します。
針金状の根は全て切らず、少し残してあります。
Eのヘゴ材に着けた轡虫です。
数本の根がヘゴを捉えて貼り付いています。
古い根の先端に注意して根をヘゴに沿わせて縛り直しました。
中央の1本は、着ける前から天葉が枯れていたようです。
天葉が枯れた原因にもよりますが、天葉が枯れると多くは短期間に子を出します。
自らの生長点が損傷したため、脇芽の発芽を刺激するようです。
通常の子出しよりも多く、その木が大きければ3,4本の子を出すことも珍しくありません。
現在残っている葉は、若干落葉しにくくなり、4,5年残る可能性があります。
Aの流木に着けた青玉竜です。
細い流木では保湿も弱いと思われますが、着けて2,3箇月で1本が枯れたものの、その後は問題がないように見えます。
流木材を捉えた根は、流木表面に貼り付いたまま伸長しています。
細い流木材に着けた場合、普段の管理は吊下げておくよりも通気性のある網等(複数の棒でも良いです。)の上へ寝かせて置いた方が水持ちが良いと思います。
下へ敷く網は目の極めて粗い物を使います。
網目の小さい網(網戸の網等)は、伸長した根が貫通して外せなくなり、根を切断しなくてはならなくなります。
青玉竜は根出し量が多い品種ですが、貼り付いた根は1条あたり1本程度に見えます。
裏側の状態です。
根先は緑色で伸長を続けています。
初夏のころの勢いはありませんが、ゆっくりと伸び続けています。
流木材を捉えていないため、特に慎重に根先を着生材に沿わせて縛り直しました。
写真中央の株は、茎の中間の葉が10枚強枯れ落ちた下に5枚葉が残るという株を着けてあります。
さらにその下に子があるため、長い茎も枯れずに生きているようです。
小さな子に樹勢があるため子は独立して生長しそうですが、親木はどうなるか分かりません。
根は短いものの本数があるため、しばらくこのままの状態を保ちそうです。
Cの流木根株に着けた風蘭と青玉竜です。
風蘭7本と青玉竜1本が枯れて、風蘭7本の着け替えを行いました。
上方から撮影した写真です。
凹凸の多い着生材は、それだけでも観賞価値が高いのですが、ランを縛るには困難で時間を要します。
違う角度から撮影した写真です。
青玉竜は樹勢があり、新根も3本見られます。
裏側に回った根は2,3本が着生材を捉えて貼り付いています。
違う角度から撮影した写真です。
流木を捉えて貼り付いている根も数本あります。
くぼんだ位置では採光が不足する恐れもあります。
屋内の窓際では光線の多くは窓側一方向からの照射になりますが、屋内の壁等で反射した光線は間接光となって窓際から死角となった面も明るくします。
反射板、板紙、布等をランの後方へ配置することでも間接光を誘導できると思います。
来年の伸長期まで株に大きな変化はありませんので、湿度保持のため少量の水苔で株元を覆います。
水苔は保水力が高いため、水苔の量を多過ぎないようにして、水やりは水苔が完全に乾いてから行うようにします。
水やりを2,3日忘れても少し安心していられます。
針金やビニール紐の隙間にピンセットで水苔を挟み込み、株元の保湿を図ります。
乾燥が強いせいか3本が枯れたフジヅルも水苔で株元を覆いました。
水苔をうまく挟み込めないところは、水苔の上をビニール紐で押さえるように縛りました。
流木着け作製後、1年近くが経過しましたが、まだ活着には年月がかかりそうです。
枯れる株も多いため、今後さらに工夫が必要で、一部のものに乾燥対策を行いました。
株が多く枯れたのは、小さなランを着けたことと湿度不足が一番の問題と思います。
乾きやすい着生材に着けたものは、根を水苔で覆うことも試すことにしました。
水苔は着けたままでも特に問題ないと思いますが、根先が着生材を捉える機会が減ると思われるため、水苔の脱着は来年の根が伸長を始める寸前(当地で4月ごろ)を考えています。
ランを載せたトレー下の水受け用トレーにもほとんど水を張らなかったため、水を常に入れておくようにしようと思います。
窓に掛けたレースのカーテンは、数年前に遮光程度の強いカーテンに代えてあったので、天候に合わせて、なるべくカーテンを開閉したいと思います。
水やりは棚のある置き場等と違って、いつ水をやったか忘れがちになります。
カレンダーは置いてあってもいつも見るとは限らず、水やりを数日忘れていても問題がないようにできればと思います。
室内卓上流木着けの1年6箇月後の状況(2022年6月の開花状況)
開花中の写真は撮影してあったのですが、ホームページの更新が遅れてしまいました。
2022年は轡虫が開花せず、青玉竜の花も少なかったです。
今年は雨天の日は数時間屋外に出すことを度々やってみました。
効果があったかどうかは分かりませんが、流木は水分保持力が弱いので、流木内部に水が浸透するようにと思いました。
5月に南面にあるレースのカーテンを厚手のものから薄手のものに替えました。
床のカーペットの日焼け防止のため厚手にしていましたが、太陽光線が差し込む冬季を除いて少し暗すぎると思っていました。
また、庭に直播きしておいたフジが芽を出したと思ったら2,3年で目覚ましく生長し、掃き出し窓の南面上部を覆うようになりました。
真夏の日陰作りにと思ってのことですが、驚くほどの生長の速さに先が思いやられます。
フジ棚を鉄パイプで作りましたが、刺されると感電したような痛みが走り、電気虫とも言われるイラガが群れで発生し、フジ棚を作ったのは良かったのかどうか多少不安です。
フジ棚の影響もあり、カーテンも替えた方が良いと思い変更しました。
風蘭・富貴蘭はかなりの耐陰性がありますが、機嫌よく生長させるためには遮光率が重要です。
どの程度の遮光率が良いかは大変難しい問題で、置き場所の環境条件・ランの個体の性質等と絡み合って一概には言えず、結局のところ経験則と試行錯誤の繰り返しで決めることになります。
遮光率の設定は難しいところですが、明る過ぎるよりは暗めの設定としてスタートし、半年から1年かけて徐々に加減して慣らしていくのが良いと思います。
以下は開花時に撮影してあった室内卓上流木着け風蘭・富貴蘭の写真です。
全体の状況です。
根は新根も出ましたが、中々思うようにヘゴを捉えてはくれません。
このままでも全く構いませんが、暇を見つけて根を誘引したいと思います。
中にはヘゴを捉えて貼り付いている根もあります。
根の先端約1cmは一旦堅いものに接触すると、そこから先は堅いものから割りあい離れずに貼り付いていきます。
下方に堅いものの端部があると、その先は離れて下方へ伸びることが多いです。
稀に上方へ貼り付いて伸びる根が上の端部では物体に沿って伸び、裏側に回って下方へと貼り付いたまま伸びることがよくあります。
着生ランの根は接触してから貼り付く機能が出ますので、空中で伸びて白くなった根は二度と貼り付くことは出来ません。
着生ランの根が貼り付くのは根の先端約1cmほどの根冠部分で、根冠が堅いものに触れそうになると根毛(目でも見え、ごく短い産毛が束になったようなもので、貼り付いた直後に消滅します。)が発達し、触れると同時に凹凸に合わせて柔軟に変形して中に入り込んで付着します。
生きている細胞層が外側表面にある根冠は根毛を出せますが、根冠の後に続く白色になった部分は死細胞となって貼り付くことは出来ません。
また、根冠が貼り付くために糊状の物質を分泌しているか等、その全ての機能はまだ解き明かされていないとのことです。
接着剤と同様に、根毛が貼り付いた後、死細胞となる過程で乾燥して貼り付くのかもしれません。
猿も滑るというサルスベリの木がありますが、着生ランの根にも得手不得手があります。
写真は山で伐採されたフジヅルに着けた風蘭ですが、ランとの相性は良くありませんでした。
樹皮は一見凹凸もあるように見えますが、よく見ると表面がツルツルしており、水ははじかれてしまうようです。
開花前に2本が枯れてしまいました。
元々樹皮付きの木は、5年10年という単位で見ますと、いずれは樹皮が木質部と分離する可能性があり、着生材には向かないものもあると思います。
相性の良くないフジヅルに1年半も着かされて枯れない生命力と耐乾燥性には驚かされます。
当園の温室フレーム内には根ほぐし状態で裸になった着生ランが何点もありますが、湿度・遮光・適度の通風があれば枯れることはほとんどありません。
着生ランの根の芯を取り巻くベラーメン(根被)と呼ばれるスポンジ層は栄養も吸収しますので、樹皮や雨水に含まれる微量の栄養を吸収していると思いますが、貼り付くのは着生材から落ちないようにするためで、何かに根が貼り付かなければ生きていけないというものではないようです。
写真は流木の根の部分を切断した着生材です。
上流から流れ下る過程で樹皮が剥がれるどころか、折れた部分も含めて木質部もささくれていました。
生木を伐採して着生材にする場合等、樹皮を剥がすと木質部がツルツルのものが多いと思います。
その場合は木工ヤスリか粒度の粗いペーパーで表面処理するのも一法かと思います。
伐採した生木でナラ(椎茸栽培の原木)の樹皮付きのものに風蘭を着けたところうまく活着しましたが、意外と水かけに弱く、7,8年で木質部の中心から腐朽して大きな空洞が出来てしまいました。
それでも外見上は樹皮に異状が見られず、風蘭の根の張り付きも良い状態です。
今一つ花数が少ないのは、遮光の影響と液肥もまだ与えていないせいだと思います。
今後は水受け皿を大きなものに替えて湿度を保てるようにしようと思います。
しっかりと活着していない状況では、ランの体力が弱そうな場合、花芽を確認した時点で摘蕾し、花は咲かせない方が良いと思います。
ランが健康で木も大きい場合には咲かせても支障ありません。
写真の風蘭はやや小振りなものですが、流木着けは写真を撮るために花芽の付いたものは咲かせました。
流木に着けて1年半経ち、ほぼ活着した状態ですが、これから年数をかけて徐々に多くの根が流木に貼り付いていくと思います。
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